2009年 07月 10日
昔の話 |
昔々・・といってもわたしが子供の頃の話ですが
アワビとりに父と母とわたしの三人で海へ出たときの話です。わたしが住んでいる村の海岸をちょっと出ますと、近くに本州最東端の灯台があるのですが、その周辺はとにかく断崖絶壁の険しい岩場なものですから他の漁場と比べてもですね、箱メガネで海の中を覗きますとやたら深い場所なのであります。父は何本も繋げて長くした竿を奥深い場所にいるアワビめがけておろしていきます。ところが場所によっては潮の流れが強かったりして、そんなときは最悪です。その潮に逆らってわたしと母は船の両端に立って漕ぎながら位置を固定しなければなりません。それが上手くできないと父にガツンと怒られます(汗)ですからわたしはとにかく怒られないようにするのに必死ですワ。でもですね、たまにこんな時もあるのです。オセとかヒケとかそういう指示があってそれにしたがって船を動かしたりするのですが、父は箱メガネを覗きながらボソボソというので聞き取れない時があるのですよ。さて困った。とりあえず感で動かしてみて当たっていたらセーフなのですが外れていたら・・・最悪です(汗)「なにぃーすったぁーー!オセでねーえ!ヒケだが」まるで雷でも落ちたかというぐらいの甲高い声で怒鳴ります。ま、しょうがないです・・・父も必死なわけですから・・・でもね、やはり、わたしも子供ですから、納得いかなくてムッとします。腹の中では怒りが煮えくり返っております。「お父さんがはっきり言わねーのがわりーべー!」と、反抗する度胸はないですが・・・心の中でそう思ってます。ブスーッとした顔つきで舟を漕ぎます。すると、父側で漕いでいる母が片方の手で拳を握り口でハーハーして、父が下を向いているのを良い事に、見えないところで父にゴンギ(ゲンコツ)をする真似をしてくれました。あれは、なんか、救われた感じがしました。怒りが一気に笑いに変わりました。といってもあからさまには当然笑えませんので、ニヤニヤとしながらいつの間にか穏やかな気持ちになっておりました。
やがて終了時間がきて、父は竿を上げ
アワビは規定のサイズより小さいものは海に返します
一つ二つと海に戻し、1個だけ殻からはずし「ほら、けー」(さあ、お食べ)
と言って父はそれをわたしにくれます
ヨコダ(カゴ)はアワビが山のように積まれ、大漁です
わたしは父からもらったそれをカプッと前歯で裂き
モグモグとアワビ独特の弾力、そして甘さを噛みしめる
そして3人を乗せた船はちょっとした小さな幸せも乗せて
太平洋は紺碧の海原を朝日が照らす光の中へ去っていくのでありました
おしまい
アワビとりに父と母とわたしの三人で海へ出たときの話です。わたしが住んでいる村の海岸をちょっと出ますと、近くに本州最東端の灯台があるのですが、その周辺はとにかく断崖絶壁の険しい岩場なものですから他の漁場と比べてもですね、箱メガネで海の中を覗きますとやたら深い場所なのであります。父は何本も繋げて長くした竿を奥深い場所にいるアワビめがけておろしていきます。ところが場所によっては潮の流れが強かったりして、そんなときは最悪です。その潮に逆らってわたしと母は船の両端に立って漕ぎながら位置を固定しなければなりません。それが上手くできないと父にガツンと怒られます(汗)ですからわたしはとにかく怒られないようにするのに必死ですワ。でもですね、たまにこんな時もあるのです。オセとかヒケとかそういう指示があってそれにしたがって船を動かしたりするのですが、父は箱メガネを覗きながらボソボソというので聞き取れない時があるのですよ。さて困った。とりあえず感で動かしてみて当たっていたらセーフなのですが外れていたら・・・最悪です(汗)「なにぃーすったぁーー!オセでねーえ!ヒケだが」まるで雷でも落ちたかというぐらいの甲高い声で怒鳴ります。ま、しょうがないです・・・父も必死なわけですから・・・でもね、やはり、わたしも子供ですから、納得いかなくてムッとします。腹の中では怒りが煮えくり返っております。「お父さんがはっきり言わねーのがわりーべー!」と、反抗する度胸はないですが・・・心の中でそう思ってます。ブスーッとした顔つきで舟を漕ぎます。すると、父側で漕いでいる母が片方の手で拳を握り口でハーハーして、父が下を向いているのを良い事に、見えないところで父にゴンギ(ゲンコツ)をする真似をしてくれました。あれは、なんか、救われた感じがしました。怒りが一気に笑いに変わりました。といってもあからさまには当然笑えませんので、ニヤニヤとしながらいつの間にか穏やかな気持ちになっておりました。
やがて終了時間がきて、父は竿を上げ
アワビは規定のサイズより小さいものは海に返します
一つ二つと海に戻し、1個だけ殻からはずし「ほら、けー」(さあ、お食べ)
と言って父はそれをわたしにくれます
ヨコダ(カゴ)はアワビが山のように積まれ、大漁です
わたしは父からもらったそれをカプッと前歯で裂き
モグモグとアワビ独特の弾力、そして甘さを噛みしめる
そして3人を乗せた船はちょっとした小さな幸せも乗せて
太平洋は紺碧の海原を朝日が照らす光の中へ去っていくのでありました
おしまい
by hp-amg2
| 2009-07-10 14:11